新着情報[生命環境化学科]宮元展義准教授 1枚1枚に修飾剤を修飾させることができる 無機ナノシートの製造方法について特許を取得
【特許番号】第7031833号 【登録日】2022年2月28日
【発明の名称】修飾無機ナノシートの製造方法、及び修飾無機ナノシート
【発明者】宮元 展義、田中 一輝
従来技術の課題・問題点
無機ナノシートと高分子との複合体を合成する場合、無機ナノシートが親水性である一方で多くの工業的に用いられる有機高分子は疎水性であることから、両者を混合するだけでは複合材料は形成されません。それを実現するためには、無機ナノシートを凝集させずに有機溶媒に分散させることが要求されます。そのため、有機化合物等を用いて無機ナノシート表面を表面修飾することで、有機溶媒との親和性を高める必要があります。また、吸着・分離材等として応用するためには、無機ナノシートの凝集による比表面積の減少を抑制し、ターゲット分子等の吸着特性を調節する等の目的で、用途に合わせて表面修飾する必要があります。スマートなコロイド材料として応用するためには、用途に合わせて、望まれる溶媒中で分散し、機能化される必要があります。しかし、従来の無機ナノシートの修飾方法においては、無機層状化合物に有機アンモニウム塩等をインターカレートさせて層間を拡げた後、この層間に修飾剤を導入して修飾し、無機ナノシートを剥離させています。そのため、使用できる修飾剤の種類が層間に導入できる化合物に制限されることや無機ナノシート表面に修飾剤を均一に修飾できないこと、及び修飾剤の修飾率が低いこと等の問題が指摘されています。
本発明の効果・特長
本発明に係る修飾無機ナノシートの製造方法、及び修飾無機ナノシートによれば、実質的に完全剥離した無機ナノシートのそれぞれを修飾できる修飾無機ナノシートの製造方法、及び修飾無機ナノシートを提供できます。
本発明の概要
宮元准教授は、無機層状物質の化学に軸足を置きつつ、高分子合成、ソフトマター物理等の幅広い分野とリンクしながら基礎応用両面から検討を進めていく過程で、無機ナノシートと高分子材料との複合材料を構成するためには、無機ナノシートの完全剥離状態を一度構成して当該完全剥離状態を何らかの方法で固定化した後、ここに修飾剤を作用させることができれば、完全剥離状態の無機ナノシートの一枚一枚それぞれの表面を修飾剤により修飾し得ることを発想しました。また、水中において無機ナノシートを実質的に完全剥離状態にし得ること、所定のゲルを形成することで当該状態を当該ゲル中に固定できること、無機ナノシートより粒径の小さな微粒子や分子が当該ゲル内を拡散しやすいこと等の知見を得、本発明に想到しました。
具体的に、本発明の実施形態に係る修飾無機ナノシートの製造方法は、無機ナノシートを例えば水中で完全剥離させ、この完全剥離状態の無機ナノシートを所定のゲル(つまり、高分子ネットワーク)により固定化し、固定化された無機ナノシートをゲル中で修飾(例えば、シリル化)する製造方法です。無機ナノシートの横方向のサイズ(数百nmから数十μm)は高分子ネットワークの網目サイズ(数nmから数十nm)に比べて大きいため、一旦固定化されれば、凝集を抑制でき完全剥離状態を保持することができます。修飾後、ゲルは分解等により除去できます。本実施形態に係る修飾無機ナノシートの製造方法によれば、実質的に完全剥離した無機ナノシートのそれぞれが修飾された修飾無機ナノシートを合成できます。
このように、無機ナノシートが完全剥離した状態をゲルにより固定し、そこに修飾剤を加えて無機ナノシートを修飾するので、無機ナノシートの表面若しくは辺縁部に水酸基が存在している限り、用いる無機ナノシートの種類に限定はありません。また、無機ナノシートの水酸基と反応する限り、ゲル中に加える修飾剤の種類にも限定がありません。したがって、無機ナノシートの1枚1枚に修飾剤を修飾させることができるだけでなく、様々な無機ナノシートに様々な修飾剤を修飾させることができるので、複合材料の精密デザインができるようになります。