新着情報[電気工学科]北川研究室と東京都立大学・九州産業大学が共同で、高エントロピー合金超伝導体の特徴を発見しました

トピックス
2022.08.04

高エントロピー合金は2004年に提案された新しい概念です。複数の構成元素が同程度の割合で合金を形成したものを指し、構造材料、生体適合材料、触媒材料、熱電変換材料などとして非常に優れた性能を示し、世界中で精力的に研究されています。超伝導材料としても高エントロピー合金は、変わった性質を示すことで注目されています。例えば、地球の中心部にかかるような超高圧力を、高エントロピー合金超伝導体に加えても超伝導状態が壊れません。また、実用面でも、臨界電流密度が非常に大きなものも報告され注目されています。しかしながら、複数の元素を同程度混ぜた高エントロピー状態が超伝導にどのような影響を及ぼすのか明らかではありませんでした。

今回、電気工学科 北川二郎教授と東京都立大学・水口佳一准教授、九州産業大学・西嵜照和教授が共同で、新しい高エントロピー合金超伝導体HfMoNbTiZrを開発しました。さらに、高エントロピー状態では、量子力学の基本原理である不確定性原理を通して、格子振動が激しくなるほど超伝導になる温度が低くなることを発見しました。不確定性原理が機能性に関わることは、超伝導体以外の高エントロピー合金にも当てはまります。したがって、本研究は、高エントロピー合金が示す様々な実用的機能性を深く理解し、さらに向上させるために役立つと期待されます。本研究では、北川研究室が試料合成・構造評価・硬さ測定・電子構造計算を、東京都立大学グループが比熱と電気抵抗率測定を、九州産業大学グループが磁化率測定を担当しました。研究成果はJournal of Alloys and Compounds(インパクトファクター6.371)に掲載されています。
また、北川研究室で得られた結果の一部は、古賀陸生さん(2021年度卒業生、現所属:九州大学大学院)の卒業研究です。

”Superconductivity and hardness of the equiatomic high-entropy alloy HfMoNbTiZr”
Journal of Alloys and Compounds 924 (2022) 166473.
著者:Jiro Kitagawa, Kazuhisa Hoshi, Yuta Kawasaki, Rikuo Koga, Yoshikazu Mizuguchi, and Terukazu Nishizaki
図1:デバイ温度(格子振動の激しさ)と電子格子相互作用(電子と格子振動の接着のしやすさ)に対する超伝導転移温度の等高線プロット。超伝導を実現するには電気を流す役目の電子がペアを組む必要があります。このとき、格子振動が接着剤の役割を果たします。通常の超伝導体では白矢印のように、格子振動が激しくなると、接着もしやすくなり超伝導転移温度が上昇します。しかし高エントロピー合金超伝導体(A,B,C,D)では、格子振動が激しくなると、原子配列の乱れによる各格子での格子振動のばらつきが大きくなります。すると、不確定性原理から接着が上手くできずペアを形成するのが難しくなり、超伝導になる温度が低下します。
【研究説明の補足】
不確定性原理:量子力学によると、電子等の位置と運動量を同時に決定することができません。これを不確定性原理と呼びます。位置と運動量だけでなく、エネルギーのばらつきと時間についても成り立ちます。今回は格子振動のエネルギーのばらつきと時間(接着にかかる時間)に関する不確定性原理が大事な役割を果たしています。

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